母樹林とは何か?未来の森林を支える親木の林をわかりやすく解説
母樹林とは?森林を育てるための「種や穂木の供給源」をわかりやすく解説
森林を育てるには、苗木が必要です。
そして苗木を育てるには、もとになる種子や穂木が必要になります。
この種子や穂木を採るために重要な役割をもつのが、母樹林です。母樹林は、将来の森林をつくるための「親木の林」ともいえる存在です。
普段の生活ではあまり聞き慣れない言葉ですが、林業、森林再生、苗木生産、花粉症対策品種、少花粉スギ、成長のよい苗木づくりなどと深く関わっています。
この記事では、母樹林の意味、役割、採種園との違い、管理方法、現代の林業における重要性をわかりやすく解説します。
母樹林とは?
母樹林とは、苗木を育てるための種子や穂木を採取する目的で選ばれた森林や樹木の集まりのことです。
「母樹」とは、種子や穂木を採るもとになる親木のことです。
その母樹がまとまって存在する林を、母樹林と呼びます。
林野庁の林業種苗に関する情報では、優良な種苗を確保するための「指定採取源」として、特別母樹林、普通母樹林、育種母樹林などが位置づけられています。令和5年度末時点で、全国の指定採取源は5,488箇所、15,141ヘクタールとされています。
簡単にいうと、母樹林は「よい苗木をつくるための種や穂を採る場所」です。
山に木を植えるとき、どこから採った種子で苗木を育てるかは、将来の森林の質に大きく関わります。
なぜ母樹林が必要なのか
森林づくりでは、ただ苗木を植えればよいわけではありません。
苗木の性質は、親となる木の性質を受け継ぎます。
たとえば、次のような性質は林業において重要です。
成長がよい
幹がまっすぐ伸びる
材質がよい
病害虫に強い
気候や土地に合っている
花粉が少ない
災害に強い森林づくりに役立つ
質のよい親木から採った種子や穂木を使えば、将来の森林の品質を高めやすくなります。反対に、由来のはっきりしない種苗を使うと、その地域の気候に合わなかったり、成長が悪かったりする可能性があります。
母樹林は、森林の将来を左右する「出発点」といえる存在です。
母樹林の役割
母樹林には、大きく分けて3つの役割があります。
1. 優良な種子を供給する
母樹林の大きな役割は、優良な種子を安定して供給することです。
スギ、ヒノキ、マツ、カラマツなどの人工林を造成する場合、苗木を育てるために種子が必要になります。
その種子を、成長や形質のよい木から採取することで、造林に適した苗木を生産しやすくなります。
2. 穂木を供給する
母樹林は、種子だけでなく穂木を採る場所としても使われます。
穂木とは、挿し木や接ぎ木などに使う枝のことです。
種子から育てる実生苗だけでなく、優れた性質をもつ木を増やすために、穂木を使った苗木生産が行われることがあります。
3. 森林の遺伝資源を守る
母樹林は、優良な遺伝資源を守る役割もあります。
地域に適した木や、成長のよい木、病害虫に強い木を保存しておくことで、将来の森林づくりに活用できます。
森林は一度植えると、数十年単位で育てるものです。そのため、どのような親木から苗木をつくるかは、長期的な森林経営にとって非常に重要です。
母樹林の種類
林業種苗法に基づく指定採取源には、いくつかの種類があります。林野庁の資料では、指定採取源は主に育種母樹・育種母樹林、普通母樹・普通母樹林、特別母樹・特別母樹林に区分されています。
普通母樹林:一般林地の中で、優れた生育を示す木や林を指定したもの
育種母樹林:林木育種によって育成された優良な種穂の供給源
特別母樹林:育種素材として特に優良な種穂の供給源
林野庁は、特別母樹林を「育種素材としての特に優良な種穂の供給源」、育種母樹林を「優良な実用種穂の供給源のうち育種により育成されたもの」、普通母樹林を「育種母樹林以外の優良な実用種穂の供給源」と説明しています。
普通母樹林とは?
普通母樹林とは、一般の森林の中から、成長や形質がよい木を含む林分を選び、種子や穂木を採取する供給源として指定したものです。
林野庁の法令解説資料では、普通母樹等は、一般林地で優れた生育を示すものを基準に照らして指定するもので、当面の種子・穂木の主要な供給源とされています。
普通母樹林は、地域の環境に適応した種苗を確保するうえで重要です。特に、地域の気候や土壌に合った森林づくりを行う際には、地元に近い採取源の情報が役立ちます。
育種母樹林とは?
育種母樹林とは、林木育種によって選ばれた優良な木をもとにした種子や穂木の供給源です。
林木育種とは、成長がよい、幹がまっすぐ、病害虫に強い、材質がよい、花粉が少ないなど、望ましい性質をもつ木を選び、次世代の森林づくりに活かす取り組みです。
採種園や採穂園は、育種母樹林として位置づけられることがあります。静岡県の林木育種事業の説明では、採種園は「種子を取るための母樹林」、採穂園は「穂を取るための母樹林」と紹介されています。
特別母樹林とは?
特別母樹林とは、育種素材として特に優良な種子や穂木を供給するための母樹林です。
普通母樹林や育種母樹林よりも、さらに育種上の価値が高いものとして位置づけられます。将来の品種改良や優良種苗の生産において、重要な遺伝資源となります。
森林の改良は、短期間で成果が出るものではありません。木は成長に長い時間がかかるため、優れた母樹を保存し、活用することが、将来の林業や森林環境を支える基盤になります。
母樹林と採種園の違い
母樹林と似た言葉に、採種園があります。
どちらも種子を採る場所ですが、意味合いには違いがあります。
母樹林:種子や穂木を採るための母樹がある林。自然林や人工林の一部が指定される場合もある
採種園:種子を効率よく生産するために、優良木を植栽・管理してつくる園地
採穂園:挿し木や接ぎ木に使う穂木を採るために造成・管理する園地
母樹林は、広い意味で「種や穂を採る親木の林」です。
一方、採種園は、優れた木を計画的に配置し、種子を採りやすいように管理する施設的な性格が強いものです。
林野庁資料では、1970年の林業種苗法改正に伴い、従来の種苗採取源は普通母樹林に、採種園と採穂園は育種母樹林に区別されたと説明されています。
母樹林はどのように選ばれる?
母樹林は、ただ木がたくさん生えていればよいわけではありません。
種子や穂木を採る親木としてふさわしいかどうかが重要です。
選定の際には、次のような点が見られます。
樹木の成長がよいか
幹がまっすぐか
病害虫の被害が少ないか
材質がよいか
種子や穂木を採取しやすいか
周辺の環境に適しているか
同じ地域での造林に向いているか
遺伝的な偏りが少ないか
特に林業用の母樹林では、将来の森林の品質に関わるため、慎重な調査や指定が行われます。指定採取源制度は、種苗の素質や産地を吟味するために重要な仕組みとされています。
母樹林の管理方法
母樹林は、指定して終わりではありません。
良質な種子や穂木を安定して採取するためには、継続的な管理が必要です。
不良木を取り除く
母樹林では、成長の悪い木、病害虫の被害が大きい木、形質がよくない木を整理することがあります。
良質な種子や穂木を確保するには、母樹として残す木の質を保つことが大切です。
日当たりを確保する
種子の生産には、母樹の健全な成長が必要です。
密度が高すぎる林では、日当たりや風通しが悪くなり、樹勢が落ちる場合があります。
必要に応じて間伐や枝打ちを行い、母樹が健全に育つ環境を整えます。
採種しやすい樹形に整える
採種園では、種子を採りやすいように樹形を仕立てることがあります。林野庁の林業種苗資料では、採種園からの球果採取では、採種母樹の樹形を仕立てて維持するための整枝剪定を兼ねて、枝摘み法や枝おろし法で採取することが一般的に行われると説明されています。
種子を採る作業は高所作業になることもあるため、安全性や作業効率も重要です。
病害虫を管理する
母樹が病害虫に侵されると、種子や穂木の品質に影響することがあります。
そのため、母樹林では病害虫の発生状況を確認し、必要に応じて対策を行います。
特にマツ類では、マツ材線虫病への抵抗性などが重要な育種テーマになってきました。
母樹林と林木育種
母樹林は、林木育種と深く関係しています。
林木育種とは、優れた性質を持つ木を選び、その性質を次の世代へ活かす取り組みです。
農業でいえば、よい品種の米や野菜を選んで育てるのに近い考え方です。
林業では、木の成長に長い年月がかかるため、育種の成果も長期的に現れます。
そのため、母樹林や採種園、採穂園を整備し、優れた種苗を安定して供給することが重要になります。
林木育種センターの資料では、スギやヒノキなどの育種種苗は、一般種苗と比べて樹高や胸高直径で約1割、材積で約2割向上することが明らかにされていると紹介されています。
特定母樹との関係
母樹林に関連する言葉として、特定母樹があります。
特定母樹とは、特に優良な種苗を生産するための種穂採取に適する樹木で、成長に係る特性が特に優れたものとして農林水産大臣が指定するものです。林野庁によると、指定基準には、在来系統と比べて材積が1.5倍以上、材の剛性が優れていること、幹の通直性が高いこと、花粉量が一般的なスギ・ヒノキのおおむね半分以下であることなどが含まれます。
特定母樹は、成長のよい森林づくりや、花粉の少ない苗木の生産と関わっています。
少花粉スギや少花粉ヒノキの普及、再造林の効率化、林業の低コスト化にもつながる重要な取り組みです。
母樹林が現代の森林づくりで重要な理由
現代の森林づくりでは、母樹林の重要性がさらに高まっています。
再造林を支える
人工林を伐採したあと、再び森林を育てるためには苗木が必要です。
良質な苗木を安定して供給するには、種子や穂木の供給源である母樹林が欠かせません。
花粉症対策につながる
スギやヒノキの花粉症対策として、花粉の少ない苗木の普及が進められています。
そのためには、少花粉・低花粉の性質をもつ母樹や採種園が必要です。
静岡県では、低花粉品種スギや少花粉品種ヒノキのミニチュア採種園を造成・管理し、種子生産を行っていると紹介されています。
林業の効率化に役立つ
成長がよく、材として使いやすい木を育てることができれば、林業の生産性向上につながります。
成長のよい苗木は、下刈り期間の短縮や育林コストの低減にも関わります。
地域に合った森林づくりができる
森林は地域ごとに気候や土壌が異なります。
その地域に合った採取源から苗木をつくることで、環境に適応した森林を育てやすくなります。
母樹林の課題
母樹林には多くの役割がありますが、課題もあります。
管理に手間がかかる
母樹林は、ただ残しておけばよいわけではありません。
種子や穂木を安定して採るためには、間伐、剪定、病害虫管理、採種作業などが必要です。
種子の豊凶がある
樹木の種子生産には、年によって多い年と少ない年があります。
豊作の年もあれば、あまり種子が採れない年もあります。そのため、苗木生産には計画性が求められます。
採種作業に危険が伴う
種子や球果を採る作業は、高い場所で行うこともあります。
安全に採取するためには、技術や装備、作業体制が必要です。
気候変動への対応
気候変動によって、従来の地域適応だけでは十分でなくなる可能性があります。
将来の気温上昇、乾燥、病害虫の変化に対応できる種苗をどう確保するかも、今後の課題です。
母樹林を身近な言葉でいうと?
母樹林は専門的な言葉ですが、身近なたとえでいうなら、森林のための親木畑のようなものです。
野菜づくりでは、よい種を選ぶことが収穫に影響します。
果樹では、よい品種の穂木を接ぎ木して増やします。
林業でも同じように、どの親木から種や穂を採るかが、将来の森林の成長や品質に関わります。
母樹林は、未来の森をつくるための「もとになる木」を守り、活かす場所なのです。
まとめ
母樹林とは、苗木を育てるための種子や穂木を採取する目的で選ばれた森林や樹木の集まりです。
森林をつくるための「親木の林」であり、林業や森林再生、苗木生産に欠かせない存在です。
母樹林には、普通母樹林、育種母樹林、特別母樹林などの種類があります。普通母樹林は一般林地の優良な採取源、育種母樹林は林木育種によって育成された供給源、特別母樹林は育種素材として特に優良な供給源です。
また、採種園や採穂園は、種子や穂木を効率よく採るために整備された母樹林の一種として理解できます。
近年では、成長がよく花粉の少ない特定母樹や、少花粉スギ・少花粉ヒノキの種子生産にも注目が集まっています。
森林は、植えてから何十年もかけて育つものです。
その出発点となる種子や穂木をどこから採るかは、未来の森の姿を左右します。
母樹林は、目立つ存在ではありませんが、健全で質の高い森林を次世代へつなぐための大切な基盤なのです。